【ストーリー】
中国の双慶市がぶち上げた「EV(電気自動車)タウン計画」。プロジェクトを担う運営会社の座をかけて、入札闘争の火ぶたが切って落とされる。
東都五和銀行北京支店に勤務する小野寺静香は行内の派閥抗争に巻き込まれ日本へ強制帰国のうえ、大阪の中小企業・飛鳥化学に出向を命じられる。飛鳥化学は大手電機メーカー・東阪電器の下請けで、リチウムイオン電池の正極材メーカーとして高い技術力を誇るが、多額の研究開発投資によって借入過多で資金繰り危機を迎えていた。
韓国の大財閥・パルスンに努める林麗香はEVタウン受注の「秘策」を胸に単身、双慶市に乗り込む。在日韓国人として大阪に育った彼女は、父親と折り合いが悪く大学生のころ、家を飛び出して、韓国と中国をさまよっていた。朝鮮族の多く住む双慶市のプロジェクトへの参画は彼女にとって、アイデンティティを求める戦いでもあった。
朝鮮族出身で、中国国家改革委員会に勤めるエリート官僚の張美香は、上司からいきなり、双慶市のEVタウンの入札監督を命じられ愕然とする。彼女にとって双慶市長の鄭月花市長は父親の仇と言える存在だった。そして彼女の上司の王毅然は電力閥、鄭月花は石炭閥の領袖で、両派は水面下で政治的に、激しく対立していた。
小野寺静香は嫌中派だった飛鳥化学の古林社長を説得する。古林はついに、親会社の東阪電器が参加する「日の丸連合」(日本政府が主導するEVタウン受注のために組成した企業連合)を離脱して、この入札への単独入札を決意する。しかしこの決断によって、三人の女性は組織の陰謀や裏切りによって思わぬ方向へ追いやられることになる。
【著者から一言】
本書は月刊誌『潮』で2年半にわたり連載した「逆転の構図」を改題し、単行本化した作品です(現在は潮文庫に入っています)。
ストーリーは日本で、大手メーカーの下請けとして経営危機に陥ったリチウムイオン電池の正極材メーカーが、中国市場での大逆転を目指し中国の大型プロジェクト「EVタウン」を落札すべく奮闘する、というものです。
同世代の三人の女性主人公(日本のメガバンク行員、韓国の大手財閥社員、中国のエリート官僚)が、国家の思惑や権力闘争と大企業の主導権争いに翻弄されながらも、理想のスマートシティ建設を目指し、自分の意思を貫いていく姿を描きました。
少し長いですが、「面白くて、役に立つ」という経済小説の醍醐味を味わって頂けると自負しています。10年前に書きましたが情報の鮮度は落ちていません。中国に興味のない方もぜひ、ご一読ください!
また現在、中国のEVメーカーが日本の自動車メーカー打倒を目指し、中国から日本へ、安くて品質の良いEVの輸出攻勢をかける作品の執筆を始めています。日本の自動車メーカーはどう反撃すればよいのか、こちらも乞うご期待!です。
追:本作品に暗号が登場します。中国語とハングルの知識のある方は、その暗号が解読できるかぜひ、挑戦してみてください。
【ストーリー】
日本産業銀行上海支店に勤務する江草は、プロジェクト獲得競争で連戦連敗。江草が軽嫌いしヨーゼフと言うあだ名をつけた山田副支店長から、支店の片隅にある「動物園」と呼ばれるガラス張りの小部屋での業務を命じられるが、めげずに勝利のチャンスをうかがっていた。江草の信念は「日中が協力すれば世界最強」。
そんな中、浅間フイルムが中国市場への進出を目指すアドバイザーの入札を行っていた。提携ターゲットは中国の国有企業・ラッキーフィルム。アメリカのウエスティンフイルムがすでに、提携交渉を行っているとの噂があった。
江草は浅間フイルムからの契約を獲得し、提携交渉を始めるが、ウエスティンフイルムのアドバイザーに就任したモルゲン・ゴールデンの美貌M&Aマネージャー・杜愛蓮が仕掛ける罠に何度も、足をすくわれる。
勝利の行方が混とんとするなか、市場もデジタル化の波を受けて大きく変化する。その時に浅間フイルムと江草が取った選択は…。
【著者から一言】
「連戦連敗」はデビュー作で、ひときわ思い入れの強い作品です(現在は「巨大市場」と改題して角川文庫に入っています)。中国関連の仕事をしていますとお互い、思わぬところでこの本の著者/読者であることがわかり、本当に面白かった!と言って頂いて、私から「ありがとうござます」と、ハグするというパターンです(笑)。中国ビジネスのバイブルと言ってくださる方もいました。
私が経済小説を執筆するきっかけは、たまたまバックナンバーで手にした週刊ダイヤモンドの「城山三郎経済小説大賞募集」という広告を見た時です。
ちょうど10年にわたる上海駐在を終える時期で当時の私は中国の金融業界でかなり、はみ出たバンカーでした(こちらをご覧ください。本名を消した日経の一面記事です)。自分が理想とする中国ビジネスを総括する卒業論文のつもりで書いてやろうと、応募締め切り2か月前から書き始め、前後関係のチェックもできないまま締め切り日に、郵便局に持ち込んだことに始めります(その時の題名は「不易と流行」でした。推敲どころか読み返す時間すらなく、お恥ずかしい話ですが死んだはずの登場人物がどこからともなく、再登場したようです)。
結果は当然、落選ですが、最終選考の3作品には残して頂きました。落選の連絡を受け、まあ、そら、しゃあないなと思っていたのですが、『週刊ダイヤモンド』2008年6月21日号に掲載された審査員の方々の選評を見て驚きました。「まるで水滸伝、三国志の世界。漫画的な強引さに惹き付けられる」(安土敏先生)、「躍動する中国そのものを読ませるパワフルな作品。丁寧な推敲を繰り返せば大賞に値する」(幸田真音先生)、「粗削りな面白さは抜群だがあまりにも全編、ぎらついていた」(佐高信先生)、「秀逸なプロローグとエピローグといい、エンターメント性といい高得点を与えられる。大器の予感を抱かせる作者の将来性に期待したい」(高杉良先生)と過分なご評価(ダメ出し?)を頂戴したのです。そして高杉先生から突然、「あれ、面白かったから出版してみたら」とご連絡を頂戴し、角川書店を紹介されデビューすることになりました。
高杉先生はご自分が切り開かれた経済小説という分野をさらに発展させるため、書き手をできるだけ、増やすことに情熱を傾けておられ、お忙しい執筆活動の中、私のような若輩者でも気さくに自宅にお招き頂き、ご指導くださいました。先生のご恩に報いるためにも、これからも「面白くて、ためになる」経済小説を書き続けていきたいと考えています。
【ストーリー】
日中両国の農業の危機を克服するため、投資ファンドを設立し黄土高原で村興しを始めた大塚草児。一方、草児の後見人、宮崎善幸が社長を務める総合飲料メーカー・六甲酒造は、日本での大型買収計画を進めていたが、水面下で、欧州穀物メジャー・オレンジサント(GMO=遺伝子組み換え食品の最大手)が乗っ取りを企てていた。
新疆ウイグル自治区など中国西北地区を舞台に、都市と農村の所得格差、少数民族、汚職、食の安全問題などに翻弄されながら、大塚草児が「盟友」中村美佐子の協力を得ながら、村おこしを進めるとき、ある奇跡が起こる。
【著者から一言】
第3回城山三郎経済小説大賞の受賞作です。
私が最初に小説を執筆し、この賞に応募した小説の題名は「不易と流行」でした(のちに、「連戦連敗」から「巨大市場」に改題)。
中国には悠久な歴史を経ても変わらない「不易」な部分と、劇的に変化する「流行」の部分が混在しているので、それをうまく切り出したいと考えたからです。それは参加していた日本の某企業向け商用車金融プログラム構築プロジェクトのため、しばらく中国の湖北省や甘粛省の農村に滞在したときに痛感しました。
一番、驚いたのは、中国の農村が陰暦で動いていることです。今ではそんなバカことはないと思いますが1990年代の終わりごろ、その農村の小学校では陰暦で動いていたため、太陽暦の10月1日の国慶節(中華人民共和国の建国記念日)の大型連休に入ることをすっかり忘れてしまい、当日になってそれに気が付いた校長先生が登校してきた生徒たちを慌てて、家に帰したという「事件」まで、ありました。
都市という「流行」の空間と、農村という「不易」の空間、両者は春節(旧正月)の時だけ一体となる。そんな二元的な世界を肌で感じることができたことは貴重な体験でした。14億人の人口で5億人が農村に生活している中国です。その中国の農村を書いてみたい、と思ったのもその時です。すでに「連戦連敗」でデビューしていた私ですが、城山三郎経済小説大賞へ応募したいという気持ちは変わらず、農村を主題とし、日本人の中国農村に対するイメージを徹底的に破壊してやろうと執筆したのがこの作品です。
この本につきましては、ダイヤモンド社の編集者として担当頂きました佐藤和子さんが、詳しく紹介してくださっています。
https://diamond.jp/articles/-/13713
この本の執筆時には中国では「農業、農村、農民」の「三農」問題と貧富の格差、食の安全などが大きな社会問題になっていた時です。昨今でも「共同富裕」が中国で叫ばれ、農村の貧困撲滅事業が盛んにおこなわれています。中国の伝統的な二元的空間に、日中戦争の悲劇(藤原ていさんの「流れる星は生きている」に触発されました)という時間軸も加えて物語を構成しました。新疆ウイグル自治区についても取り上げておりますので、日本で今、報道されている実態とは大きく異なる実情にも触れて頂けると思います。
ぜひ、ご一読ください!
【ストーリー】
日本産業銀行(産銀)に勤務する江草雅一は、北京支店への赴任を命じられた。「日中が協力すれば世界最強」が信念の江草に任されたのは、民営化が予定されている国策銀行、中国改革銀行への出資交渉だった。
一方で、中国政府系ファンドが産銀株買い占めに動いており、産銀上層部は情報収集に追われる。やがて、「人民元」の国際化を目論む中国当局が、高まる反日感情を背景に進めていた極秘プロジェクト、進出した日系企業を中国政府が国有化するという衝撃の「マルコ・ポーロ計画」が発表される…。
【著者から一言】
経済大国となった中国は膨張を続けます。人民元もその存在感を増していき、それは世界を吞み込んでいく。それにどう対応していくのか、今後の日本に突き付けられた大きな課題です。
この課題を取り上げるため最初は、アフリカを書こうと思いました。赤いイナゴと揶揄されるように、中国の巨大化した経済力が、アフリカ諸国を呑み込んでいった姿を人民元の国際化を通じて描きたかったのです。しかしなかなか、アフリカに取材する機会が得られず今でも、いつかは書いてやると思いながらも実現していません。
もちろん、私の思いなどとは関係なく、人民元はどんどん進歩していき、デジタル化の動きが加速しています。その状況は最新作、「小説 デジタル人民元」で取り上げておりますので、そちらをぜひご覧ください。
本作は「連戦連敗」に登場する人物で物語を構成し、膨張する人民元の姿を切り取ろうとしたものです。
人民元は今後とも、経済小説の大きなテーマであり続けると思います。本作品は私なりの出発点です。ただ、この作品の執筆を通じて、通貨を対象とする経済小説は書き手に幅広い知識と高い技量が必要なことも痛感しました。
理解が浅い所や、切りだし方の拙劣さはあると思いますが、ご一読いただき、コメントなど頂戴できると幸甚です。