2022年の5月に発売となりました最新作『小説 デジタル人民元』について紹介させていただきます。
今回の小説はデジタル通貨やそれを可能にしたブロックチェーン、スマートコントラクト、その応用編であるNFT(非代替性トークン)などを題材として取り上げます。
主な舞台設定は3つです。まずは中国を覆いつくすシャドウバンク(パンダ航空)、そしてマイナス金利で経営危機を迎える日本のメガバンク(みかさ銀行)、最後はデジタル人民元を活用して中国市場のシェア死守を図る日本の建機メーカー(石川製作所)です。
オムニバス方式で、ストーリーを楽しんで頂きながら、世界最先端を行く中国のフィンテックやメタバースなどの新技術、世界を覆うデジタル独裁の現状に対する知識を深めて頂けます。ぜひ、ご一読ください!
【ストーリー】
第一話は、愛妻からいきなり、離婚を切り出されたうえに、中国成都市の消費者金融子会社に出向を命じられたみかさ銀行のエリート行員・加賀俊彦が「金融機関の任務は信用を創造すること。つまりは人を信用すること」という理想を胸に、美人秘書・ジェシカの仕掛ける誘惑と罠にはまりながらも、会社再建に取り組む話です。加賀の前には中国最大のシャドウバンク「パンダ航空」の総経理・ゴールデンがが立ちはだかり、最後には…。
第二話は加賀と決別したジェシカが幼馴染の小龍に、新疆ウイグル自治区のホータン市にある闇の骨董市場に案内されます。この骨董市場はブロックチェーンで運営され資金決済はすべて、デジタル通貨で行われていました。そこにもパンダ航空の魔の手が伸びていて、勝利したかに見えた小龍の前には武装警察が現れ…。
第三話は中国リスクを理由に、建設機械部門の売却が検討されていた石川製作所で、建機部門のエース・二宮真也がショベルをデジタル資産化して流通させる画期的な手法(NFT)で建機部門を身売りから守ろうとする物語です。
そんな二宮真也には、黒幕であるゴールデンのアレンジで新疆ウイグル自治区から日本に「脱出」していたジェシカが接近し、二人は恋に堕ちてしまいます。デジタル人民元の実験都市に指定されている成都市に乗り込んだ真也ですが、同僚を殺害した容疑で警察に拘束され、ようやく釈放されたものの、ジェシカと一緒に彼女の故郷を訪れた真也は、パートナーであるパンダ航空の真の闇にたどり着くことになります。
ストーリーはその後、一話完結を離れ、第四話 デジタル独裁、第五話マイニング、モノローグ、第六話スマートコントラクト、第七話ブラックリスト、そしてどんでん返しのエピローグへと展開していきます。
デジタル人民元を通じた中国人と日本人の人間模様、少し長いですがぜひ、ご一読ください!
【著者から一言】
現在、世界で最も広く使われている通貨は「紙幣」です。私たちは今、通貨が「紙」から「数字(デジタル)」に変わる過渡期に生きています。「仮(バーチャル)な数字」が「真(リアル)な紙」にとって代わるのです。小説の中ではそれぞれの主人公が紅楼夢の「仮(か)の真(しん)となるとき真もまた仮、無(む)の有(う)たるところ有もまた無」という言葉の意味を追い求める設定にしたのも、その時代感覚を浮き彫りにしたかったからです。
今回の小説は世界史上初めて、紙幣が流通した中国の成都市を舞台に設定しました。成都市はデジタル人民元のテスト都市に指定されていますので、紙からデジタルへの過渡期のシンボルとしてはうってつけの都市だと考えたのです。
この成都市を舞台に、アナログな思想から脱却できない日本のメガバンクの姿を描きたいという思いもありました。本文中にも紹介しましたがアリババのジャック・マーが「これまでの過去一世紀、国家は先進国と発展途上国に区分されていた。これからはデジタル国家と非デジタル国家に分かれるだろう」と述べています。日本は今まで、アジアで唯一の先進国というのが精神的なよりどころでしたが、今では完全に、非デジタル国家として世界から取り残されようとしています。
恐らく真っ先に淘汰されるのはアナログ中のアナログであるメガバンクだと思うのです。
もちろん、どちらの国が良いとか悪いとかを言うつもりはありません。国としても企業としても優れているほうを取り入れればよいと思っているだけです。中国がゼロコロナに固執して迷走する姿を見ると失望を禁じる読者も多いと思います。しかし、少なくとも金融業界では、日本はデジタル化で先行する中国から何も学ぼうとしないばかりか、ディスってばかりいる人も多い。こんな現実への警鐘の意味も含めて物語を展開してみました。
ぜひご一読いただき、いろいろなご意見・ご批判を頂ければと思います!